東証スタンダードの上場基準をわかりやすく解説|必要書類や注意点

東証スタンダードの上場基準をわかりやすく解説|必要書類や注意点

「東証スタンダード市場」― それは、成長を続ける中堅企業にとって、新たなステージへの飛躍を可能にする場所。プライム市場ほどハードルは高くなく、グロース市場よりも安定性を求める企業に最適な選択肢です。

しかしその上場基準やメリット・デメリット、さらには審査プロセスや準備のポイントを詳しく知る人は多くありません。ここでは貴社を上場へと導くための、具体的かつ実践的な情報を余すところなく解説します。

東証スタンダード市場への上場を真剣に考えている経営者CFO、IPO担当者の皆様は必見です。

東証スタンダード市場の概要

東京証券取引所の外観

東証スタンダード市場は、「公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えた企業向けの市場」と定義されています。

また「持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場」とされています。

これは以前の東証二部、JASDAQ(スタンダード)と東証一部の一部を引き継ぐ市場という位置づけで誕生しました。 安定した収益基盤を持ちながらも、さらなる成長を追求する中堅企業にとって最適な市場といえるでしょう。  

プライム市場との違い

プライム市場は、スタンダード市場よりも高い流動性とガバナンス水準が求められる市場です。 世界中の投資家との良好なコミュニケーションを重視する企業に向いており、 グローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向けの市場といえます。

企業によっては、プライム市場の上場基準を満たしているにも関わらず、自社の事業環境や経営戦略等を踏まえ、あえてスタンダード市場を選択するケースもあります。  

グロース市場との違い

グロース市場は高い成長可能性を有する企業向けの市場です。 スタンダード市場と比べ、上場基準が緩やかになっているのが特徴です。

IPO時点では事業実績が十分でなくとも高い将来性が見込める企業であれば、上場できる可能性があります。そのため高い成長が期待される、比較的小さいベンチャー企業などが数多く参加しています。

スタンダード市場は、グロース市場よりも高い流動性を求められるため、上場維持基準が高くなっています。 またグロース市場とは異なり、企業の継続性や収益性に関する審査項目が追加されています。

※ グロース市場に関する詳細は、「東証グロース上場基準満たして成長を加速【資金調達の最適解】」で取り上げています

プライム・グロース市場との違い一覧表

市場コンセプト規模感投資家層ガバナンス基準
プライム市場グローバルな投資家に向けた、高い流動性とガバナンス水準を備えた市場大企業機関投資家中心厳格
スタンダード市場国内経済の中核を担う、安定した収益基盤と成長性を備えた市場中堅企業個人投資家・機関投資家が混在一定水準
グロース市場高い成長可能性を有する企業向けの市場成長段階の企業個人投資家中心柔軟性

※ 東証の3市場に関する詳細は、「東証|プライム・スタンダード・グロースの違いと最適なIPO市場選び」で取り上げています。

スタンダード市場のメリット

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スタンダード市場を選択するメリットとしては、以下の点が挙げられます。

個別に内容を見ていきましょう。

上場基準がプライム市場より緩和

プライム市場よりも上場基準が緩和されているため、上場しやすい点がメリットです。 中堅企業や成長企業にとって、より現実的な選択肢となります。  

資金調達の幅が広がる

株式公開により成長資金を効率的に確保できます。 例えば、事業拡大のための設備投資やM&Aなどに必要な資金を、株式市場から調達することが可能になります。  

信用力の向上

上場により投資家や取引先からの信頼が高まり、ビジネスチャンスの増加に繋がります。上場企業というステータスは企業の信用力を高め、取引先や金融機関からの信頼を得やすくなるだけでなく、新規顧客の獲得や優秀な人材の確保にも役立ちます。  

プライム市場へステップアップが可能

将来的に事業拡大後の市場変更を視野に入れることができます。 スタンダード市場で実績を積み重ね、企業規模が拡大した際には、より高い流動性と知名度を持つプライム市場へのステップアップを目指すことができます。  

優秀な人材確保

上場企業は知名度や信用力が高いため、優秀な人材を確保しやすくなります。優秀な人材の確保は企業の成長にとって不可欠です。上場企業は求職者にとって魅力的な就職先となり、優秀な人材を獲得しやすくなります。  

安定した収益基盤・財政状態の証明

市場区分の再編後は上場時の水準が上場維持基準に適用されるようになり、スタンダード市場の上場企業には、安定した収益基盤や財政状態を備えていることが求められるようになりました。

そのため、スタンダード市場に上場し続けることは、常に安定した収益基盤や財政状態を備えている企業という証明になり、社会からの信頼性が高まります。

スタンダード市場のデメリット

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一方、スタンダード市場を選択するデメリットとしては、以下の点が挙げられます。

個別に内容を見ていきましょう。

上場コストの負担

上場準備や維持にかかるコスト(監査、内部統制、法令遵守など)が増加します。上場するためには、監査法人による監査や内部統制システムの構築など、様々な費用が発生します。

また上場後も情報開示や株主総会などの費用が発生し、企業の財務状況に影響を与える可能性があります。

※ 内部統制に関する詳細は、「【IPO】株式上場における内部統制の必要性や目的や要素を解説」で取り上げています。

※ 上場に関する費用の詳細は、「上場(IPO)にかかる費用を解説|審査費用、新規・年間上場料」で取り上げています。

透明性と規律の要求

定期的な情報開示やガバナンス体制の強化が必要になります。 上場企業は財務情報や経営状況などの企業情報を、投資家に対して定期的に開示する義務があります。

またコーポレートガバナンス・コードへの準拠など、ガバナンス体制の強化も求められます。  

市場規模の制約

プライム市場に比べ投資家層が狭く、取引量が少ない場合があります。プライム市場と比較して、スタンダード市場は投資家層が限定されるため、株式の流動性が低く株価が変動しにくい可能性があります。  

内部体制構築の負担

小規模企業にとって、法令や規制への対応が大きな負担になる場合もあります。 上場企業には、会社法や金融商品取引法などの法令遵守が求められます。

そのため小規模企業にとっては、法令や規制への対応が大きな負担となる可能性があります。

買収されるリスク

不特定多数に株式情報が公開されるため、競合他社や意図しない株主が株式を買い占める場合があります。 上場により株式が市場で自由に取引されるようになるため、敵対的な買収の対象となるリスクがあります。

プライム市場と比べた資金調達の難しさ

プライム市場に上場している企業と比較して、資金調達がしにくい可能性があります。 これはプライム市場に上場している企業の方が、投資家からの注目度が高くて資金が集まりやすい傾向があるためです。

関連記事

上場のメリット・デメリットの全般的な詳細は、「中小企業が上場するメリット・デメリットを解説【資金調達】」で取り上げています。

東証スタンダード市場の上場基準の詳細

スケッチブックに「審査」の文字とペン

東証スタンダード市場への上場基準は、「形式基準」と「実質基準」のふたつに大別されます。詳細を見ていきましょう。(日本取引所グループ 上場審査基準より抜粋

形式基準

形式基準は定量的な基準であり、以下の項目が設定されています。

株主数: 400人以上   
流通株式数: 2,000単位以上   
流通株式時価総額: 10億円以上   
流通株式比率: 25%以上   
事業継続年数: 3か年以上 

 ■その他
純資産額が正であること、最近1年間の利益が1億円以上であること、など   

これらの基準を満たすためには、適切な資本政策やIR活動などを通じて株主数を増やし、流通株式比率を高める必要があります。

実質基準

実質基準は定性的な基準であり、企業の経営状況やガバナンス体制などを総合的に評価します。具体的には以下の項目が審査されます。

企業の継続性及び収益性

適切な事業計画が策定され、安定した利益計上が見込まれるか、安定的かつ継続的な経営を行える体制を有しているかを確認します。  

企業経営の健全性

不当な取引や利益供与がないか、独立性が保たれているかなどを確認します。経営の公平性・透明性が確保されている必要があります。  

企業のガバナンスと内部管理体制の有効性

コーポレートガバナンス・コードの全原則適用が求められます。 これは、プライム市場で求められている「より高い水準」までは求められていません。

しかし企業の規模や成熟度に応じた、適切なガバナンス体制を整備し、機能させていることが求められます。  

企業内容等の開示の適正性

企業内容等の開示を適正に行うことができる状況にあるかを確認します。 投資家に対して、必要な情報を適切なタイミングで開示できる体制を構築する必要があります。  

公益性・投資家保護のための取引所の判断事項 

その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項の基準をクリアするためには、次の多岐にわたる取り組みが必要です。

  • コーポレートガバナンスの強化
  • 内部監査体制の整備
  • コンプライアンス体制の構築
  • リスク管理体制の整備…など

加えて、プライム市場及びスタンダード市場の全上場企業は、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を開示することが求められています。

これは株主・投資家の目線を踏まえた経営の重要性が高まっていることを示しています。  

関連記事

上場審査に関する全般的な詳細は、「【IPO】上場審査とは?審査基準・流れ・対策ポイントを徹底解説」で取り上げています

資本コストと株価を意識した経営の重要性

東京証券取引所は、上場会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を支えるため、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を要請しています。

具体的には、取締役会が定める経営の基本方針に基づき、経営層が主体となることが求められています。経営層は資本コストや資本収益性を、十分に意識する必要があります。

その上で持続的な成長の実現に向けた知財・無形資産創出につながる研究開発投資・人的資本への投資や設備投資、事業ポートフォリオの見直しなどの取組みを推進することが必要です。

これらの取組みを通じて、経営資源の適切な配分を実現していくことが期待されています。

上場審査のプロセス

「STEP」と印字されたブロック

東証スタンダード市場への上場審査のプロセスは、以下のとおりです。

上場申請

上場を希望する企業は所定の申請書類を東証に提出します。

ポイント

提出書類は多岐に渡り、作成には専門的な知識が必要となります。 監査法人や証券会社と連携し、正確かつ漏れのない書類作成を行うことが重要です。

書類審査

東証は提出された書類に基づき、形式基準および実質基準への適合性を審査します。

ポイント

形式基準は明確な数値基準であるため、事前に基準を満たしているかを確認しておくことが必要です。 実質基準については、企業の継続性や収益性、内部管理体制などが総合的に判断されます。

ヒアリング

必要に応じて東証は企業に対してヒアリングを行い、事業内容や経営状況などを確認します。

ポイント

ヒアリングでは審査担当者からの質問に、明確かつ論理的に回答できるよう、事前に想定される質問への回答を準備しておく必要があります。

また企業の将来展望やリスク管理体制などについても、説明できるよう準備しておきましょう。

実地調査

東証は企業の事業所などを訪問し、実態調査を行います。

ポイント

実地調査では、書類審査で提出した内容と実際の状況が一致しているかを確認されます。 そのため日頃から、適切な内部管理体制を構築し、運用しておくことが重要です。

上場承認

審査の結果、上場基準を満たしていると判断された場合、東証は上場を承認します。

ポイント

上場承認後も上場維持基準を満たす必要があります。 継続的な企業価値向上に向けた取り組みが重要となります。

東証スタンダード市場の有名企業例

ビジネスマンと3つのチェックボックス

スタンダード市場に上場している代表的な企業

スタンダード市場には様々な業種の企業が上場しています。以下に、代表的な企業をいくつかご紹介します。

■日本オラクル
世界的なIT企業であるオラクルの日本法人。  

■日本マクドナルドホールディングス
世界最大級のファストフードチェーンであるマクドナルドの日本法人。  

■住信SBIネット銀行
SBIホールディングスと住友信託銀行が共同で設立したインターネット銀行。  

■東映アニメーション
アニメーション制作会社。  

■セリア
「100円ショップ」の小売業及び卸売業社。  

■ハーモニック・ドライブ・システムズ
精密減速機メーカー。  

■ワークマン
作業服・作業用品専門店チェーン。  

■フクダ電子
医療機器メーカー。  

これらの企業は、いずれも安定した収益基盤と事業実績を有しており、スタンダード市場のコンセプトに合致しているといえます。

スタンダードからプライムへ市場変更した企業例

■SHIFT
ソフトウェアテストサービスを提供する企業。2022年12月にスタンダード市場からプライム市場へ市場変更しました。

上場準備スケジュールとロードマップ

ビジネスに関する議論している

IPOを実現するためには、通常は3年以上の準備期間が必要となります。 主な準備項目としては以下の点が挙げられます。  

■内部管理体制の構築
コーポレートガバナンスの強化、内部監査体制の整備、コンプライアンス体制の構築、リスク管理体制の整備など

■財務会計体制の整備
会計基準への準拠、内部統制の構築、財務諸表の作成など

■資本政策の策定
適切な資本構成の検討、資金調達方法の検討、株主構成の検討など

法務・税務デューデリジェンス: 法令遵守状況、税務リスクの洗い出しなど

■証券会社・監査法人の選定
IPOを支援する証券会社や監査法人の選定

■IR体制の構築
投資家向けの情報開示体制の整備、IR担当者の育成など

■上場申請書類の作成
有価証券届出書、目論見書など

これらの準備項目を効率的に進めるためには、上場準備のスケジュールとロードマップを作成することが重要です。

ロードマップには各準備項目の担当者や期限、進捗状況などを明確に記載し、定期的に進捗状況を確認することで、IPOに向けた準備をスムーズに進められます。

内部管理体制の構築

東証スタンダード市場では、コーポレートガバナンス・コードの全原則適用が求められるため、 適切な内部管理体制を構築することが重要です。具体的には以下の取り組みが求められます。  

■コーポレート・ガバナンスの強化
取締役会の役割・責任の明確化、社外取締役の導入、内部監査機能の強化など

■内部監査体制の整備
内部監査部門の設置、内部監査の実施、監査結果の報告など

■コンプライアンス体制の構築
コンプライアンス規程の整備、コンプライアンス教育の実施、内部通報制度の整備など

■リスク管理体制の整備
リスクの特定・評価、リスク対応策の実施、リスク管理のモニタリングなど

これらの取り組みを効果的に進めるためには、監査法人、証券会社、コンサルタントなどの外部専門家の知見を活用することが有効です。

資本政策の策定

IPOを成功させるためには、適切な資本政策を策定することが重要です。具体的には以下の点を検討する必要があります。

■適切な資本構成
負債と資本のバランスや自己資本比率などを検討し、最適な資本構成を決定します。

■資金調達方法
公募増資や第三者割当増資など、様々な資金調達方法を検討し、企業の成長戦略に合致した方法を選択します。

■株主構成
創業者や従業員、ベンチャーキャピタルなど、株主構成を検討して企業のガバナンス体制に最適な構成を決定します。

監査法人・証券会社の選定

IPOを成功させるためには、経験豊富な監査法人や証券会社を選定することが重要です。選定基準としては以下の点が挙げられます。

■IPO支援の実績
過去に多くのIPOを支援してきた実績があるか。

■専門性
企業の事業内容に精通した専門家がいるか。

■人的ネットワーク
投資家や金融機関との幅広いネットワークを持っているか。

■コミュニケーション能力
企業とのコミュニケーションを密に取り、適切なアドバイスを提供してくれるか。

監査法人と証券会社は、IPOプロセスにおいて重要な役割を担います。監査法人は、財務諸表の監査や内部統制の評価を行い、証券会社は、上場申請書類の作成や投資家への説明などを担当します。

これらの専門家と連携して協力体制を築くことが、IPO成功の鍵となります。

※ 監査法人に関する詳細は、「IPOにおける監査法人の役割と選び方|監査法人難民の対策も解説」で取り上げています。

※ 証券会社に関する詳細は、「【IPOを成功に導く】主幹事証券会社の役割と選び方のポイント」で取り上げています。

IR体制の構築

IPO後は投資家に対して、企業情報を定期的に開示する義務が生じます。そのためIPO前に、IR体制を構築しておくことが重要です。具体的には以下の取り組みが求められます。

■情報開示体制の整備
投資家向けウェブサイトの開設、決算説明会の実施、適時開示体制の構築など

■IR担当者の育成
IRに関する知識・スキルを習得したIR担当者を育成します。

東証スタンダード市場上場|成功への羅針盤

まとめと印字された木のブロックとビジネスマン風の人形

東証スタンダード市場は、成長性と安定性のバランスを求める企業にとって、魅力的な選択肢です。

本記事で解説した次のことを参考に、自社の状況を客観的に評価し、計画的に準備を進めることが重要です。

  • 上場基準
  • 上場基準
  • メリット・デメリット
  • 審査プロセス
  • 準備スケジュール

上場はゴールではなく新たなスタートです。上場後も継続的な企業価値向上を目指し、株主や投資家、そして社会全体の期待に応え続けることが求められます。

この記事が貴社の持続的な成長と、中長期的な企業価値向上の一助となれば幸いです。 監査法人や証券会社など、信頼できる専門家のサポートも積極的に活用し、共に未来を切り拓いていきましょう。

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