中小企業が上場するには?|IPOに必要な売上高や条件などを解説

中小企業が上場するには?|IPOに必要な売上高や条件などを解説

「中小企業が上場するには、一体何から始めれば良いのか?」 もしあなたがそうお考えなら、本記事はお役に立ちます。

ここでは中小企業が、上場(IPO)を成功させるために不可欠な知識を凝縮。 上場の基礎から準備ステップ、費用、注意点まで、IPO実現への道のりをわかりやすく解説します。

読み進めることで、貴社も上場実現に向けた具体的なアクションプランを描けるようになるでしょう。ぜひご活用ください。

そもそも中小企業が上場するとは      

「基本」と掛かれた黒板をもつスーツ姿の男性

中小企業が上場(IPO)するとは、自社が発行する株式を証券取引所で売買できる状態にすることをいいます。「株式を公開する」ともいいます。

上場された株式は、主に一般投資家により売買がされ、購入されれば資本を調達することができます。

現状の非上場との違い                    

上場していない株式会社は、原則的に非上場企業となります。よって中小企業や、スタートアップ企業などは非上場です。

非上場の企業は、株式は公開市場には非登録であり、株式の売買は限られた関係者のみで行われます。そのため当該企業の株式を、一般の投資家が購入することは原則できません。

上場(IPO)できる可能性

上場(IPO)の可能性を判断する際、売上や利益は重要な指標のひとつです。上場を目指す企業は、一定の売上規模や成長性を示す必要があります。

例えば、東京証券取引所の市場区分によると、スタートアップや中小企業向けのグロース市場では、売上規模が必ずしも大企業並みである必要はないものの、持続的な成長が求められます。

あずさ監査法人が公表している「2023年のIPO動向について」の資料を見てみましょう。東証グロース市場に上場した企業の約60%が売上高は30億円未満です。また10億未満の企業は18社でした。

この水準の売上を見込め、かつ将来的な成長性をアピールできる企業であれば、上場の準備を進めることが可能です。

複数の要素により左右される

また売上高だけでなく、利益率やキャッシュフローも重要な要素です。上場に向けた財務的な健全性を示すためには、安定した利益を上げているかどうかが問われます。

特に継続的な赤字を出している企業は、成長分野であっても上場に至るまで時間がかかる可能性が高くなるでしょう。

IPOの可能性は売上や利益、業界の特性、将来の成長性といった複数の要素に左右されます。各企業が自社の財務状況と市場の期待を踏まえ、どの市場を目指すかを慎重に検討することが成功の鍵になるでしょう。

上場するまでの最短期間

「When?」と印字されたブロックと壁掛け時計

過去に最速クラスで上場したニューラルポケット株式会社(現:ニューラルグループ株式会社)の例は、非常に特異です。IPOに要した期間は約2年半です。このスピードは、日本の通常の上場準備プロセスから見ても異例の速さといえます。

この背景には、ニューラルポケット社が独自のAI技術を基盤にしつつ、急速に事業を拡大し、市場からの評価を早期に得たことが影響しています。

ニューラルポケット社のような、短期間での上場は極めて例外的です。多くの企業が上場までに3年以上の準備期間を要しています。

長期の準備期間がかかる理由のひとつは、形式要件と実質審査基準をクリアするために、多くの時間が必要だからです。特に、内部統制の強化や情報開示体制の構築は非常に複雑で、多岐にわたる関係者との調整が求められます。

3年の準備期間は非常にタイトである
さらに上場準備には、外部の専門家の協力が必要なケースが多くあります。例えば、監査法人や証券会社、IPOコンサルティング会社との連携が欠かせません。

これらのステップには多大な時間とリソースがかかるため、一般的な企業が2年半で上場を目指すのは非現実的です。スムーズに進行させたとしても、3年でも非常にタイトなスケジュールといえるでしょう。

5年以上の期間を要する場合も

また市場や業界によっては、さらに長い準備期間が必要なこともあります。例えば、バイオテクノロジーや医薬品関連の企業では、技術開発に時間を要します。

加えて、売上が安定するまでに多くの年月を要するケースがあり、上場までの期間が5年以上に及ぶことも珍しくありません。

そのため、上場を目指す企業は、適切な計画とリソース配分を行い、現実的なスケジュールで準備を進めることが求められます。

中小企業が上場するメリット

meritと印字されたカード

中小企業が上場(IPO)することには、多くのメリットがあります。これらのメリットは、企業の成長を加速させ、事業の信頼性や資金調達力を強化する上で非常に重要です。

主に次のようなメリットがあります。

個別に内容を見ていきましょう。

知名度・社会的信用が向上する

中小企業が上場することで、企業の知名度や社会的信用は大幅に向上します。株式市場に上場することは、金融機関や取引先に対して企業の信頼性を高める重要な要因です。

特に東京証券取引所に上場する企業は、社会的な認知度も一層高まり、取引の幅が広がる傾向があります。これは潜在的な顧客やパートナー企業にとって、企業の財務健全性や成長性の証として捉えられ、ブランド力強化にも繋がるでしょう。

資金調達の選択肢が増える

上場によって資金調達の選択肢が増える点も大きなメリットです。

未上場企業の場合、資金調達手段は主に銀行融資やベンチャーキャピタルからの投資に限られます。上場企業は株式の発行を通じて広く資金を調達することが可能です。

公募増資や株式売出しによって、迅速かつ柔軟に資金を調達できることが、成長を加速させる一因となります。

内部管理体制の強化

上場に伴い、内部管理体制の強化も求められます。金融商品取引法やコーポレートガバナンス・コードの適用により、上場企業は経営の透明性やコンプライアンスの徹底が必要です。

これらにより企業は、内部監査やリスクマネジメント体制を強化し、経営の健全性を確保します。

内部管理体制強化は、結果的に企業全体の運営効率を高め、ステークホルダーからの信頼を獲得するための重要な要素になるでしょう。

優秀な人材を採用しやすくなる

上場企業は優秀な人材を採用しやすくなるというメリットもあります。

上場企業であること自体が社会的な信用を得ています。そのため若年層や、専門的なスキルを持つ人材にとっては、魅力的なキャリアプランに映るでしょう。

実際、上場企業は非上場企業に比べて応募率が高く、優秀な人材の確保に繋がっていることが明らかです。これは上場企業が、提供できる給与や福利厚生の面でも、競争力があるためだといえます。

創業者利益を確保できる

創業者にとっても上場は大きな利益をもたらします。株式公開によって、創業者は保有する株式の一部を売却することで、個人の財産を確保できます。

また企業が成長し株価が上昇することで、創業者の持ち分の価値もさらに上がります。特にM&A市場が活発化している現在では、創業者が得られるキャピタルゲインは無視できません。

従業員のモチベーション向上

上場は従業員のモチベーションUPにもつながるでしょう。

上場企業はストックオプションなどのインセンティブプランを導入しやすく、従業員が企業の成長に対する直接的な報酬を得られる仕組みを提供できます。

これにより従業員の業績への貢献意識が高まり、生産性向上やチームの団結力強化につながります。

中小企業が上場するデメリット

demeritと印字されたカード

中小企業が上場することには多くのメリットがありますが、一方でデメリットも無視できません。

上場による主なデメリットは次のとおりです。

個別に内容を見ていきましょう。

上場コストと事務負担の増大

上場には多額のコストがかかります。企業が上場する際には、次の費用が主に必要です。

  • 証券取引場への上場手数料
  • 監査法人の監査費用
  • 証券会社への手数料

これに年間維持費も加わります。例えば、プライム市場への上場に際して、数億円規模の初期費用が発生することも一般的です。

また上場後も、定期的な決算報告や株主総会の準備といった事務作業が増えるため、企業の内部体制強化が求められます。この事務負担は、特に人手やリソースの限られた中小企業にとって大きな負担となりがちです。

経営自由度の制限

上場によって経営の自由度が制限される可能性があります。上場企業は株主や投資家への説明責任が伴うため、意思決定が複雑化するからです。

例えば、企業の重要な方針変更や新規事業への投資なども、株主の意向や市場の反応を考慮しなければならない場合が多くなります。

これにより、創業者や経営陣が従来行っていた迅速な意思決定が困難になる場合があります。特に短期的な利益を求める株主に対しては、長期的な戦略が犠牲になるリスクも考えられるでしょう。

敵対的買収のリスクがある

上場することで敵対的買収のリスクも生じます。上場企業は株式を市場で自由に売買できるため、経営権を狙った外部勢力による買収が可能となります。

特に日本国内でもM&A(企業買収)が活発化しており、経営権を奪われるリスクは企業にとって大きな懸念材料です。

防衛策として「ポイズンピル」や「ホワイトナイト」の導入が検討される場合もあります。しかしこれらの施策には、さらなるコストがかかるうえ、企業の経営資源を割かなければなりません。

株主への配慮が求められる

上場企業は株主への配慮が求められます。

配当や株主優待など、株主還元策を導入することで株主からの支持を得ることが重要になります。しかしこれらも、企業の財務負担を増やす要因のひとつです。

また株価の維持や向上が求められます。業績が安定していない企業は、株価下落に伴う株主からのプレッシャーが経営陣に重くのしかかる場合も少なくありません。

以上の点を考慮すると、中小企業が上場する際には、お伝えしたメリットとデメリットを十分に天秤にかけ、慎重な判断が必要です。

※ 企業が上場するメリット・デメリットの詳細は「中小企業が上場するリット・デメリットを解説【資金調達】」で取り上げています。

各証券取引所の審査基準(形式要件)

東京証券取引所の外観

各証券取引所の審査基準は、企業が上場するために必要な条件を定めており、取引所ごとに異なる特徴があります。日本国内の取引所における、形式的な基準について以下に解説します。

なお上場条件に、社員数や資本金の明確な要件は設けられていません。

東京証券取引所(TSE)

東京証券取引所は日本で最大の取引所であり、上場基準は特に厳格です。市場は次の区分に分かれています。

  • プライム市場
  • スタンダード市場
  • グロース市場
  • TOKYO PRO Market

各区分については、それぞれで求められる形式的な基準が、以下のように異なります。(JPX日本取引所グループ「上場審査基準」より抜粋)

プライム市場の審査基準

プライム市場は国際的な投資家にも対応するため、企業の透明性や持続的成長が重要です。上場企業は、十分な流動性や投資家に対する情報開示を確保する必要があります。

株主数…800人以上
流通株式数…2万単位以上
流通株式時価総額…100億円以上
流通株式数(比率)…上場株式等の35%以上
時価総額…250億以上

純資産額(上場時見込み)

連結純資産の額が50億以上、かつ単体純資産の額が負ではないこと

事業継続年数

新規上場申請から起算して、3か年以前から株式会社として継続的に事業活動をしていること

利益または売上高

最近2年間における利益の額の総額が25億円以上。

最近1年間の売上高が100億円以上、かつ時価総額が1,000億円以上

スタンダード市場の審査基準

スタンダード市場は、成長を続ける中堅企業に適した市場です。

株主数…400人以上
流通株式数…2,000単位以上
流通株式時価総額…10億円以上
流通株式数(比率)…上場株式等の25%以上

純資産額(上場時見込み)

連結純資産の額が正であること

事業継続年数

新規上場申請から起算して、3か年以前から株式会社として継続的に事業活動をしていること

利益または売上高

最近1年間の利益の額が1億円以上

グロース市場の審査基準

グロース市場は、スタートアップやベンチャー企業向けで、成長性を重視した基準が採用されています。

株主数…150人以上
流通株式数…1,000単位以上
流通株式時価総額…5億円以上
流通株式数(比率)…上場株式等の25%以上

純資産額(上場時見込み)

基準なし

事業継続年数

新規上場申請日から起算して、    1か年以前から株式会社として継続的に事業活動をしていること

利益または売上高

基準なし

※ グロース市場に関する詳細は、「東証グロース上場基準満たして成長を加速【資金調達の最適解】」で取り上げています。

TOKYO PRO Market

TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)は、原則、プロ投資家のみが取引を行える市場です。株主数、流通株式数・比率などの形式基準はありません。

※ TOKYO PRO Marketに関する詳細は、「東京プロマーケットの上場基準とは? 簡易IPOで企業成長を加速」で取り上げています。

関連記事

東京証券取引所の3市場に関する詳細を取り上げています。

》東証|プライム・スタンダード・グロースの違いと最適なIPO市場選び

名古屋証券取引所(NSE)

名古屋証券取引所では、企業の規模や成長段階に応じて、次の3つの市場を提供しています。

  • プレミア市場
  • メイン市場
  • ネクスト市場

それぞれの市場で異なる上場基準が設定されています。(名古屋証券取引所 上場制度より抜粋)

プレミア市場

プレミア市場は、名古屋証券取引所の中でもっとも厳しい基準が設けられており、成熟した企業が対象となります。

株主数…800人以上
流通株式数…2万単位以上
流通株式数(比率)…上場株式等の35%以上
時価総額…250億以上

純資産の額(上場時見込み)

連結純資産の額が50億以上、かつ単体純資産の額 正

事業継続年数

3年以前から株式会社として継続的に事業活動していること。

利益の額または売上高

最近2年間の利益の額が総額25億円以上。最近1年間の連結売上高が100億円以上、かつ時価総額が1,000億円以上。

※どちらかに適合すること

メイン市場

メイン市場は、中堅企業や成長を続ける企業向けの市場です。プレミア市場に比べて上場基準が少し緩和されており、成長途中の企業が上場できる市場として位置づけられています。

株主数…300人以上
流通株式数…2,000単位以上
流通株式数(比率)…上場株式等の25%以上、他
時価総額…10億以上

純資産額(上場時見込み)

連結純資産の額が正

事業継続年数

3年以前から株式会社として継続的に事業活動していること。

利益の額または売上高

最近1年間の利益の額 1億円以上

ネクスト市場

ネクスト市場は、主に成長企業やベンチャー企業向けに設置された市場です。

株主数…150人以上
流通株式数…基準なし
流通株式数(比率)…基準なし
時価総額…3億以上

純資産の額(上場時見込み)

基準なし

事業継続年数

1年以前から株式会社として継続的に事業活動をしていること

利益の額または売上高

基準なし

札幌証券取引所(SSE)

札幌証券取引所は、北海道を拠点とする企業が中心で、地域の中小企業やベンチャー企業が上場しています。

「本則市場」と「アンビシャス市場」に分かれており、異なる上場基準が設定されています。(札幌証券取引所 上場基準概要より抜粋)

本則市場

株主数…300人以上
流通株式数…2,000単位以上
流通株式数(比率)…上場株式等の25%以上、他
時価総額…上場日に10億以上

純資産の額(上場時見込み)

3億以上

事業継続年数

3年以前から株式会社として事業活動を継続

利益または売上高

基準事業年度の経常利益が5,000万円以上

アンビシャス市場

株主数…100人以上、他
流通株式数…基準なし
流通株式数(比率)…基準なし
時価総額…基準なし

純資産の額(上場時見込み)

1億以上(最近2年間の営業利益が連続して50百万円以上の場合は、「正」)

事業継続年数

1年以前から株式会社として事業活動を継続

利益または売上高

基準事業年度の営業利益の額が「正」。営業利益の額が「正」でない場合において、収益の向上が期待できる場合を含む

※どちらかに適合すること

福岡証券取引所(FSE)

福岡証券取引所は、九州地方を中心にした企業の上場をサポートしています。

「本則市場」と「Q-Board」に分かれており、異なる上場基準が設定されています。また令和6年12月16日に、新たな市場である「Fukuoka PRO Market」(福岡プロマーケット)が開設されました。(福岡証券取引所 上場審査基準の概要より抜粋)

本則市場

株主数…300人以上
流通株式数…2,000単位以上
流通株式数(比率)…25%以上、他
時価総額…10億以上

純資産の額(上場時見込み)

連結純資産の額 3億円以上、かつ単体純資産の額 正

事業継続年数

3年以前から株式会社として、継続的に事業活動をしていること

利益または売上高

最近1年間 5,000万円以上の経常利益

Q-Board

株主数…200人以上
流通株式数…500単位以上の公募
流通株式数(比率)…基準なし
時価総額…3億以上

純資産の額(上場時見込み)

連結・単体純資産の額 正

事業継続年数

1年以前から株式会社として、継続的に事業活動をしていること

Fukuoka PRO Market

Fukuoka PRO Market(福岡プロマーケット)は、プロ投資家のみが取引を行える市場です。株主数、流通株式数・比率などの形式基準はありません。

上場するための実質審査基準とは

ホワイトボードに「point!」の文字と、指し棒

中小企業が上場を目指す際、先ほどお伝えした形式的な要件だけでなく、実質的な審査基準もクリアすることが必要です。

実質審査基準は、企業の持続的な成長性や健全性を評価するために設けられています。上場後に企業が健全に運営され、投資家からの信頼を得られるかどうか、を判断するための重要なポイントです。

実質審査基準の項目は次のとおりです。

個別に内容を見ていきましょう。

企業の継続性および収益性

中小企業が上場を目指す際、もっとも重視されるのが企業の「継続性」と「収益性」です。

上場後に安定した収益を確保し持続的な事業運営が可能かどうか、が審査の焦点となります。具体的には、以下のポイントが評価されます。

過去の業績の安定性

過去数年間にわたり、売上高や利益が安定的に推移していることが求められます。赤字が続いている場合、上場審査を通過するのは、基本的に困難です。

成長性

現在の事業がどの程度の市場成長性を持ち、今後も収益を伸ばせる見込みがあるかが重要です。適切な事業計画の作成や市場分析に基づいた、合理的な成長戦略が必要になります。

キャッシュフローの健全性

安定したキャッシュフローを確保できているかどうかも審査対象となります。企業は、営業キャッシュフローを十分に確保し、将来の成長のための投資が可能であることを示さなければなりません。

以上の要素により、企業が今後も継続して利益を生み出せるかが評価され、安定的な経営が期待できるかが問われます。

企業の経営の健全性

上場企業は、健全な経営を維持するために、適切な財務運営と強固な経営基盤が必要です。経営の健全性を確認するために以下の項目が重視されます。

財務体質の健全性

適正な負債比率を維持し、過剰な借入金に依存していないかがチェックされます。財務レバレッジが過度である場合、リスクが高いと判断され、上場審査で不利となる可能性があります。

リスク管理体制

企業が市場や競争環境の変化に柔軟に対応できるかを示すために、リスク管理が適切に行われているかが評価されます。不確実性への備えが十分であることが、企業の持続性を支える要素となります。

特に外部環境の変化に、迅速な対応できる経営体制が重要視され、柔軟な戦略運営が可能であることが求められます。

企業のコーポレートガバナンス及び内部管理体制の有効性

企業のガバナンス体制も、上場審査において重要な項目です。投資家の信頼を得るためには、透明性の高い経営と適切なガバナンスが必要です。審査の際に考慮される主な要素は次のとおりとなります。

取締役会の独立性

取締役会に独立した社外取締役を含むことで、客観的かつ健全な経営判断が行われているかが問われます。特に利益相反がない形での経営が求められます。

内部統制システムの構築

内部監査やコンプライアンスの体制が整備され、法令違反や不正が発生しにくい環境が整っているかが審査されます。企業がガバナンスの強化に努めていることが、審査を通過する上での鍵になるでしょう。

ガバナンスの透明性は、企業の長期的な成長と信頼性を担保する要素であり、上場後に投資家からの信頼を維持するために不可欠です。

※ 内部統制に関する詳細は、「【IPO】株式上場における内部統制の必要性や目的や要素を解説」で取り上げています。

企業内容等の開示の適正性

上場企業は、適時かつ適正な情報開示を行う責任を負います。この点について、上場審査では情報開示の正確性と透明性が評価されます。

財務情報の正確さ

財務報告やその他の重要な情報が正確に開示されているかが確認されます。虚偽の情報や誤解を招くような報告は厳しく評価され、審査通過は困難です。

開示のタイミングと透明性

適時適切に情報開示を行い、投資家が企業の状況を把握できるようにしているかが重視されます。これにより投資家はリスクを正しく認識し、適切な判断を下せるようになります。

情報開示の適正性は、投資者の保護や企業の信頼性を高めるための重要な要素です。

その他公益又は投資者保護の観点から各取引所が必要と認める事項

各証券取引所は公益性や投資者保護の観点から、特定の追加審査を実施する可能性があります。

これは企業が特定の業界で社会的な影響を持つ場合や、投資家へのリスクが高いと判断された場合に適用される可能性があります。

社会的責任

企業が環境、社会、ガバナンス(ESG)に対する取り組みをどの程度行っているかが重要視される場合があります。特に社会的責任を果たす企業としての姿勢が評価されます。

投資家保護

上場後、投資家に対する公平な対応が行われるか、企業が投資家に対して適切なリスク管理を行っているかが審査の対象となります。

東証などが公益や投資家保護の観点から追加審査を行う場合があります。これらの基準を満たさない企業は、上場に向けてのハードルが高くなります。

東証のグロース市場の実質審査基準

中小企業が上場先として、もっとも多いグロース市場の実質審査基準についてご紹介します。実質審査基準の項目は以下のとおりです。(JPX日本取引所グループ「上場審査基準」より抜粋)

企業内容、リスク情報等の開示に関する適切性

企業内容、リスク情報等の開示を適切に行うことができる状況にあること。

※「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示の状況を含めて確認。

企業経営の健全性

事業を公正かつ忠実に遂行していること。

企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性

コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が、企業の規模や成熟度等に応じて整備され、適切に機能していること。

※ コーポレートガバナンス・コードの対象:基本原則

事業計画の合理性

相応に合理的な事業計画を策定しており、当該事業計画を遂行するために必要な事業基盤を整備していること又は整備する合理的な見込みのあること

その他公益又は投資者保護の観点から取引所が必要と認める事項

記載なし

※ 審査基準の詳細は、「【IPO】上場審査とは?審査基準・流れ・対策ポイントを徹底解説」でも取り上げています。

中小企業が上場への準備と流れ

「STEP」と印字されたブロック

中小企業が上場を果たすまでには、いくつかの段階を経る必要があります。上場には時間がかかり、財務やガバナンスの整備、情報開示の準備などが必要です。上場を目指す企業が通る一般的なプロセスを詳しく解説します。

IPOから3期以上前

IPOから3期以上前の主な準備作業は次のとおりです。

  • 上場企業の選定
  • 事業計画・資本政策の策定
  • プロジェクト・チームの結成
  • 監査法人の選定
  • ショートレビューの実施

基本的に上場申請期から3期以上前に、会社として上場することを意思決定し、準備を開始します。数多くの作業や専門知識が必要になり、タイムリーな対応を求められます。

全社一丸になり取り組む

上場の準備は、一部のスタッフのみが担うのではなく、全社一丸になって取り組む姿勢が必要でしょう。

専属担当チームを組成することが多くあり、少数のスタッフで準備を進めようとする会社をよく見かけますが、避けるべきです。

準備が不十分になる恐れがあるだけではなく、作業負担から日常業務に支障をきたす場合があるからです。

また管理部門だけで準備を進めるのも不適切だといえます。営業や開発などの部門のスタッフが入っていない場合、会社の実態にそぐわないまま準備が進む恐れがあるからです。

監査法人によるショートレビューを受ける

上場することを決定すれば、まずは監査法人によるショートレビューを受けるのが通常です。ショートレビューとは、上場への課題を明確にするための調査のことで「予備調査」とも呼びます。

※ 監査法人に関する詳細は「IPOにおける監査法人の役割と選び方|監査法人難民の対策も解説」で取り上げています。

多くの関係者と協力して準備を進める

またメインバンクやベンチャーキャピタルとも連携を密にして準備を進める必要があります。そのほかにも、次のような関係者と協力して準備を進めます。

  • 証券代行機関
  • 印刷会社
  • 顧問弁護士
  • コンサルティング会社…など

各関係者の協力なしでは上場を実現するのは困難です。

IPOから2期前(直前前期)

IPOから2期前の主な準備作業は次のとおりです。

  • 利益管理制度・組織運営体制などの準備
  • 特別利害関係者等との取引解消
  • 子会社や関連会社の整理
  • 内部統制報告制度(J-SOX)への対応
  • 主幹事証券会社の決定

IPOの2期前の初めに監査法人による調査を受け、監査体制を整えます。さらに、期末後には再度監査を受け、適正と評価される「適正意見」を得ることが求められます。

前期のショートレビューで指摘を受けた課題を、適用や改善がしっかりされているのかを確認します。主には次のよう内容です。

  • 財務会計
  • 各種規定の整備
  • 社内システム
  • 関連会社の取引の見直し…など

ショートレビューによる課題の改善などが不十分な場合は、もう1期かけて適切に運用されるように再実施する必要があります。

主幹事証券会社の決定

またこの時期には主幹事証券会社を決め、各種申請書類の作成など上場審査に向けた準備を進める時期となります。

IPOから1期前(直前期)

監査法人や主幹事証券会社の指導を受けながら、次の必要な体制や規定が整っているのかの、最終的な確認と実施を重ねます。

  • 取締役会など運営体制
  • 会計管理
  • 労務管理
  • 社内規定の徹底
  • ディスクロージャー体制…など

上場に向けた書類作成

上場申請書類や投資家向けの説明資料などの草案を作成し、監査法人や証券会社の指導を仰ぎます。

直前においても監査法人の監査を受けて、適正である評価を得る必要があります。

上場に必要なその他外部業者の選定

上場に必要になるその他の外部業者の選定も、直前期に行いましょう。

  • 有価証券届出書の印刷会社
  • 株式事務委託をする証券代行会社
  • リーガルチェックを行う弁護士…など

IPOする年度

申請書類などをひと通り整え、証券取引所に上場申請を行います。申請にかかる期間はおおよそ2~3ヶ月が目安です。

現地調査や代表者のヒヤリングなどを何度か経て、証券取引所から上場申請がおりれば、晴れて上場となります。

中小企業が上場するのに必要な費用

「COST」と印字されたA4用紙をバインダーで挟んでいる。その周りには大量の紙幣

中小企業が上場するためには多額の費用が必要になります。年間にかかる費用をざっくりお伝えすると、5,000万円ほどです。

特にウェイトが大きい費用は次のとおりです。

個別に内容を大まかに見ていきましょう。

監査法人にかかる費用

監査法人は上場審査において会計監査を行い、企業の適切な会計処理を指導・アドバイスする役割を担います。かかる費用は1事業年度当たり800~2,000万円ほどが相場です。

主幹事証券会社にかかる費用

株式上場時に、株式を引き受ける中心的な証券会社を主幹事証券会社といいます。IPO全体のスケジュール管理や公開価格の決定など、上場手続きで重要な役割を担います。かかる費用は1事業年度あたり500~2,000万円ほどが相場です。

※ 主幹事証券会社に関する詳細は「【IPOを成功に導く】主幹事証券会社の役割と選び方のポイント」で取り上げています。

IPOコンサルティング会社にかかる費用

上場には、経営体制の整備や会計監査、証券会社や証券取引所の審査、書類作成など多くの作業が必要です。そのためIPOコンサルティング会社が一般的に利用されます。かかる費用は1事業年度あたり500~1,500万円ほどが相場です。

 内部統制に係る費用(J-SOXコンサルティング)

上場するには、内部統制の構築・評価が必要です。そのためにJ-SOXコンサルティングの専門家にサポートを依頼する場合があります。かかる費用は1事業年度あたり500~2,000万円ほどが相場です。

以上が、上場までに必要な主な費用となります。

他にも、証券印刷会社への費用や株式事務代行の費用、上場審査料などがかかります。それらの費用を合計すると、1億円以上に費用がかかる場合も珍しくありません。

また上場した後も一定の費用が毎年かかります。

※ 上場に関する費用の詳細は「上場(IPO)にかかる費用を解説|審査費用、新規・年間上場料」で取り上げています。

中小企業上場成功の羅針盤 – 知識と戦略

まとめと印字された木のブロックとビジネスマン風の人形

上場(IPO)は中小企業にとって、企業価値向上の絶好の機会です。 本記事では、その成功に必要な知識と戦略を解説しました。

上場のメリットは、信用力向上、資金調達の多様化、人材確保、従業員モチベーション向上など多岐に渡ります。 一方で、コスト増、経営制限、株主対応といったデメリットも存在します。

上場準備には3年以上の期間と全社的な取り組みが不可欠。 形式要件と実質審査基準をクリアし、自社に合った市場を選ぶ必要があります。 専門家のサポートも活用し、計画的な準備を進めましょう。

上場は容易ではありませんが、適切な準備と戦略で実現は十分に可能です。 本記事が、貴社の上場実現を導く羅針盤となれば幸いです。 戦略的アプローチで、上場という目標を着実に実現しましょう。

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