
貴社がIPO準備を検討されるなかで、まず気になるのが費用ではないでしょうか。IPOには多岐にわたる費用が発生し、その総額は決して小さくありません。
本記事では、IPO準備にかかる期間と費用の内訳を詳細に解説します。費用項目ごとの相場や、コストを抑えるための具体的な対策もご紹介しております。
ぜひ最後までお読みいただき、IPO準備を成功に導くための第一歩としてください。
上場(IPO)準備に必要な期間

IPOの準備期間は、一般的な目安は約3年と見込まれています。この期間には、上場前に実施されるIPO監査のうち直近2期分の会計監査と、確率された経営管理体制での1年間の運用が必要だからです。
準備の過程では、監査法人によるショートレビューの実施や内部統制の整備を行う必要があります。これらの作業に時間がかかる場合、準備期間が3年以上に延びることも珍しくありません。
また会計監査は、過去にさかのぼって実施できないため、計画どおりに準備を進めることが大切です。
準備期間の長さと費用の影響
上場にかかる費用を抑えるためには、準備期間を短くすることに、越したことはありません。上場期間が長引くことで、費用面にどのような影響があるかをお伝えします。
内部コストの増大
上場準備の期間が長引くと、専任スタッフやプロジェクトチームにかかる人件費が増加します。
上場準備に専念するチームの規模が大きい場合、その影響はより顕著に現れます。
外部費用の増大
監査期間が延びると、その分監査法人に支払う報酬も増加します。監査期間が長いほど、監査業務に必要な時間や工数が増え、コストに直結します。
IPO準備の支援を依頼しているコンサルタントの契約期間が延びれば、それに伴う費用も高額になります。上場に関連した法務対応や証券会社とのやり取りも時間が長引くほど費用がかさみます。
上場(IPO)の準備段階でかかる費用

上場するには、準備段階からさまざまな費用が必要になります。主な費用は次のとおりです。
それでは個別に内容を見ていきましょう。
監査法人に支払う費用
株式上場を目指す企業にとって、監査法人(公認会計士)による「ショートレビュー」と「準金商法監査」は重要なプロセスです。これらは上場要件を満たすために必要であり、財務およびガバナンス体制を整える目的で実施されます。
- ショートレビューの費用
- ショートレビューとは、企業が上場準備を進める中で、財務やガバナンスに関する監査法人からの助言を受けるプロセスのことです。
この過程で指摘された改善点をクリアすることで、企業は上場に向けた基盤を強化できます。費用は150万円~400万円程度とされており、会社の規模や状況に応じて変動します。
- 準金商法監査の費用
- 一方、準金商法監査は、上場直前の2事業年度(直前期および直前々期)における財務諸表を対象に、上場企業と同等の基準で行われる監査です。
準金商法監査では証券取引所が求める、監査法人による「無限定適正意見」の表明が必要とされています。準金商法監査の費用は1,000万円~数千万円におよび、規模や監査対象の複雑さによって異なります。
監査法人の役割と費用の決定要素
監査法人は最新の会計基準に基づき、企業の財務処理が適切かを評価し、改善点を指導する役割を果たします。
特に上場審査では、直近2期分の監査証明が求められるため、これに備えて早期に監査を依頼する企業が多いです。
監査にかかる費用は、業務量や企業規模により大きく変動します。費用を決定する主な要素は次のとおりです。
- 財務数値(売上高、利益、総資産など)
- 業種や事業内容
- 連結子会社の有無、拠点数、人員数…など
一般的な相場として、監査法人に支払う費用は1事業年度あたり800万円~2,000万円程度です。工数の見積もりに基づいて報酬が決まるため、具体的な金額は企業の状況次第となります。
※ 監査法人の詳細は「IPOにおける監査法人の役割と選び方|監査法人難民の対策も解説」で取り上げています。
主幹事証券会社に支払う費用
株式上場(IPO)において、主幹事証券会社は非常に重要な役割を担います。この証券会社は、上場手続き全般のアドバイザーとして、企業が適切に準備を進められるようサポートを提供します。加えて、上場時には自社株式を引受け、販売する業務も担当します。
主幹事証券会社とは
通常、IPOを目指す企業は複数の証券会社と契約しますが、その中でも中心的な役割を果たすのが主幹事証券会社です。
主幹事証券会社は、株式上場時の支援にとどまらず、準備期間中から継続的に助言やサポートを提供するため、企業にとって欠かせない存在です。
主幹事証券会社に支払う報酬には、上場準備手数料やコンサルティング費用が含まれます。その金額は、年間500万円から2,000万円程度が一般的で、証券会社や契約条件によって異なります。
以上のように、主幹事証券会社は上場成功の鍵を握るパートナーとして、多岐にわたる支援を行っています。
※ 主幹事証券会社に関する詳細は、「【IPOを成功に導く】主幹事証券会社の役割と選び方のポイント」で取り上げています。
コンサルティング会社への報酬
IPO(株式上場)を成功させるためには、次のような膨大な準備が必要です。
- 経営管理体制の整備
- 会計監査
- 証券会社の引受審査
- 必要書類の作成など
- 証券取引所の審査対応
これらの業務を効率的に進めるため、多くの企業がIPOコンサルティング会社を利用します。IPOコンサルティング会社には以下の3種類があり、それぞれ得意分野が異なります。
- 証券会社系コンサルタント
- 証券取引所の審査実務に精通しており、審査対応や必要書類の作成、証券会社の引受審査を円滑に進めるためのアドバイスが得意です。上場審査に関する実務的な課題をサポートします。
- 会計士系コンサルタント
- 内部統制や決算開示体制の整備に強みを持ち、監査法人による準金商法監査をスムーズに進めるための支援を提供します。経営陣と二人三脚でガバナンス体制を構築する役割を果たします。
- ベンチャー・スタートアップ系コンサルタント
- スタートアップ系コンサルティング会社は、CFO(最高財務責任者)経験者が所属し、IPOを目指す企業に現実的なアドバイスとサポートを提供します。
公認会計士の有資格者は、財務や会計面での専門的サポートも可能です。実務だけでなく、精神面での支援も特徴です。
※ IPO審査に関する詳細は「【IPO】上場審査とは?審査基準・流れ・対策ポイントを徹底解説」で取り上げています。
報酬の相場と選定のポイント
IPOコンサルティング会社への報酬は、年間500万円~1,500万円程度が一般的ですが、企業規模や依頼内容によって変動します。
お伝えしたとおり、審査対応やガバナンス整備といった分野で特化している会社も多いため、必要なサポート内容に応じて適切なコンサルティング会社を選ぶことが重要です。
場合によっては、複数のコンサルティング会社を組み合わせて起用するケースもあります。
顧問弁護士の報酬
株式上場(IPO)の準備では、会社法や金融商品取引法、独占禁止法などに基づいた法的対応が求められます。特に上場申請書類のリーガルチェックや、法的リスクの分析は弁護士への依頼が必要不可欠です。
上場準備における法務は専門性が高く、対応する作業量も膨大です。そのため、多くの企業は企業法務を専門とする大手法律事務所に依頼します。これにより複雑な法律要件を満たし、適切な手続きが進められます。
- 顧問弁護士をつけるメリット
- 弁護士との顧問契約を結ぶことで、日常的な法的アドバイスが受けられるだけでなく、上場に向けた書類作成や法務面での精査もスムーズに進みます。
弁護士報酬の目安
上場準備段階での弁護士費用の総額は、依頼内容や稼働時間によって異なりますが、おおよそ500万円~2,000万円程度です。
法律相談については、顧問契約を結ぶことで対応できる場合があります。顧問弁護士の費用は、月額3~5万円程度が標準的で、これにより軽微な法律相談が可能になります。
高度な専門性が必要となる対応に関しては、着手金などは別途発生するのが一般的です。
顧問税理士への報酬
株式上場(IPO)を目指す企業にとって、財務や収益性の透明性は、証券取引所の厳しい審査をクリアするための重要なポイントです。この財務面の対応を万全にするためには、税務・会計のプロである税理士のサポートが必要でしょう。
税理士の的確なアドバイスにより、審査のコアとなる部分をしっかり整備できます。
税理士報酬の目安
税理士を顧問として雇用する場合には、顧問料と個別の業務委託費が発生します。
顧問料は企業の規模や依頼内容によって異なり、月額3~15万円程度が相場です。委託費は依頼する仕事の内容によって決まります。
上場申請書類の印刷費用
株式上場(IPO)を目指す企業は、新規上場申請のために有価証券報告書など、膨大で専門的な内容の書類を作成・提出する必要があります。これらの書類には厳格な作成ルールがあり、会社法や金融商品取引法、証券取引所の規定に基づく正確な記載が求められます。
上場申請書類の作成・印刷においては、機密保持や専門性が重要なため、証券印刷に特化した専門の印刷会社に依頼することが一般的です。
費用の目安
印刷会社にかかる費用は、書類提出のタイミングや企業の規模により異なります。N-2期やN-1期では比較的少額ですが、N期(本申請の年)には500~600万円程度を想定するのが一般的です。
内部統制の構築|J-SOXコンサル
株式上場(IPO)には、不正防止や財務報告の透明性を確保するための「内部統制」の構築が必要です。これには全社統制や決算統制、IT統制などの仕組みを整備し、財務報告の信頼性を高める取り組みが含まれます。
内部統制の構築を支援する専門家が「J-SOXコンサルタント」です。J-SOXコンサルは、調査から整備、教育、運用までを包括的にサポートし、企業が上場審査を通過できる体制を整えます。
費用の目安
J-SOXコンサルタントへの依頼費用は年間500万円~2,000万円程度ですが、企業規模や内容によっては2,000万円を超える場合もあります。内部統制の適切な構築は、IPO成功の重要なポイントです。
※ 内部統制に関する詳細は、「【IPO】株式上場における内部統制の必要性や目的や要素を解説」で取り上げています。
上場(IPO)時に発生する費用

上場時には次の費用が必要になります。
個別に内容を見ていきましょう。
上場審査料および新規上場料
上場申請を行う際には、「上場審査料」を支払う必要があります。そして上場が承認され、株式を市場に上場する際には、「新規上場料」の支払いが必要です。
上場審査料や新規上場料は、上場先の市場によって異なります。東京証券取引所における、各市場の上場審査料と新規上場料は以下のとおりです。
市場区分 | 上場審査料 | 新規上場料 |
プレミアム市場 | 400万円 | 1,500万円 |
スタンダード市場 | 300万円 | 800万円 |
グロース市場 | 200万円 | 100万円 |
上場審査料は審査に通過する否かに関係なく、必ず支払う必要があります。なお支払い期限は、上場申請日が属する月の翌月末までです。
登録免許税
登録免許税は、会社や不動産の登記・登録にかかる税金です。特に、株式会社設立や資本金の増加時に発生します。税額は資本金額に応じて変動し、計算には以下のルールが適用されます。
■資本金の増加時
登録免許税は、増加した資本金額に0.7%(資本組入額×1000分の7)を掛けた金額、または最低税額である15万円のいずれか大きい方が課されます。
■資本金が2,143万円未満の場合
登録免許税の最低額である15万円となります。
■資本金が2,143万円以上の場合
資本金額×0.7%の金額が税額となります。
証券会社の引受手数料
株式上場の際、企業が発行する株式を公募する場合は、主幹事証券会社をはじめとする複数の証券会社に株式を買い取ってもらうのが一般的です。このプロセスを「株式の引受」と呼びます。
株式の引受にあたって、企業は証券会社に対して引受手数料を支払います。手数料の目安は、公募総額の5%~9%程度が一般的です。
スプレッド方式の場合
証券会社は、「スプレッド方式」を採用する場合があります。この方式では、公募価格と発行価格に差額(利ザヤ)を設け、その差額を証券会社の手数料とするため、企業が手数料を直接負担する必要はありません。
株式の公募・売出しに係る料金
上場に際して、企業が株式を公募または売出しする場合、証券取引所へ規定の料金を支払う必要があります。これらの料金は、発行や売却する株式数および価格に基づいて計算されます。
東京証券取引所における、株式の公募・売出しに係る料金は次のとおりです。
■公募の場合
公募株式数 × 公募価格 × 0.0009(1万分の9)
■売出しの場合
売出株式数 × 売出価格 × 0.0001(1万分の1)
※ 100円未満の端数は切り捨て
なおグロース市場への、新規上場における公募・売出しに係る料金は、最大1,900万円に制限されています。
上場後に発生する費用(上場維持コスト)

上場後に関しては次の費用が発生します。
個別に内容を見ていきましょう。
年間上場料
上場会社は、証券取引所に対して「年間上場料」を毎年支払うことが必要です。年間上場料の金額は、上場先の市場や企業の上場時価総額に基づいて決定されます。
東京証券取引所における年間上場料は、以下の表のとおりです。
上場時価総額 | プライム市場 (金額) | スタンダード市場 (金額) | グロース市場 (金額) |
50億円以下 | 96万円 | 72万円 | 48万円 |
50億円を超え250億円以下 | 168万円 | 144万円 | 120万円 |
250億円を超え500億円以下 | 240万円 | 216万円 | 192万円 |
500億円を超え2,500億円以下 | 312万円 | 288万円 | 264万円 |
2,500億円を超え5,000億円以下 | 384万円 | 360万円 | 336万円 |
5,000億円を超えるもの | 456万円 | 432万円 | 408万円 |
支払期日は3月末日及び9月末日までとなります。(表の金額にTDnet利用料を加算した金額の半額ずつ)
上記表の金額に加え、TDnet利用料(12万円)を足した額が合計額となります。なお新規上場の場合、年間上場料は上場月によって異なります。
新株券等の発行等に伴う料金
上場後に株式の売出しを行う際にも、証券取引所への支払いが発生します。
■上場株券等を発行又は処分する場合
1株当たりの発行価格×発行又は処分する株券等×万分の1
■新株予約権の目的となる株式が上場株式である新たな新株予約権を発行する場合
(新株予約権の発行価格×新株予約権の総数+新株予約権の行使に係る外部費用の増大金額×新株予約権の目的となる株式の数)×万分の1
■上場株券等の売出しをする場合
売出株式数×売出価格×万分の1
株式事務代行機関への委託費用
上場会社は、会社法に基づき株式事務代行機関を設置することが義務付けられています。
株式事務代行機関は発行会社に代わり、名簿書換事務をはじめとして、議決権・配当等株主に付与される各種の権利の処理など、株式全般の事務を代行します。
株式事務にかかる業務は専門的な知識が必要なため、信託銀行や証券代行会社など、証券取引所が指定する機関に委託するのが一般的です。
委託費用の相場
委託費用は企業の規模や業務量によって異なり、ベンチャー企業では年間400万円程度、比較的規模が大きい企業では年間1,000万円~2,000万円程度が相場とされています。
監査費用(金商法監査)
上場会社は、金融商品取引法第193条の2第1項に基づき、特別な利害関係を持たない公認会計士または監査法人から監査証明を受けることが義務付けられています。
この監査証明は、財務諸表などの信頼性を確保し、会社内部の透明性を担保するために実施されます。これを「金商法監査」と呼びます。
監査費用の相場
金商法監査を受けるためには、監査法人または公認会計士への依頼が必要です。監査費用は、企業の規模や形態、時期によって異なります。
一般的な相場は年間500万円~1,500万円程度ですが、大規模な企業では1,000万円~数千万円となる場合もあります。
顧問弁護士の報酬
株式上場を目指す企業にとって、運営や財務に関するリーガルチェックは不可欠です。
金融庁や証券取引所に提出する開示書類が、金融商品取引法や上場規則に適合しているかを確認するため、専門性の高い弁護士のサポートが必要となります。
弁護士報酬の目安
上場準備では、顧問弁護士を選任し、継続的な法律相談に備えるのが一般的です。顧問料の相場は月額3~5万円程度となります。顧問料の範囲で対応できるのは、簡易な法律相談に限られることが大半です。
上場準備に伴う専門性の高い案件を依頼する場合には、着手金や別途費用が必要になることがあります。この場合、上場に関する事務に限定した場合でも、年間300万円~500万円程度は必要でしょう。
上場の費用を抑える方法

最後に、上場準備の費用を抑えるための一般的な方法をお伝えします。効率的な計画と適切な選択が重要になります。
内部体制を早期に整える
初期段階でガバナンスやリスク管理体制を整備し、J-SOX対応を見据えた準備を進めることで、後のコスト増加を防ぎます。社内専門人材を育成することで外部依存を減らせます。
中小監査法人の活用
大手監査法人に比べて、中小監査法人は多少のコスト削減が期待できます。業界経験やサービス品質を確認し、柔軟な対応が可能な監査法人を選ぶことがポイントです。
ITシステム導入
クラウド型ERPや電子帳簿保存法対応システムの導入で業務効率を向上させ、監査対応を効率化できます。IT導入補助金を活用することで導入費用も抑えられるでしょう。
上場市場の適正化
上場企業は、東証グロース市場や地方取引所(札幌、名古屋、福岡など)など、企業規模や特性に適した市場を選ぶことで、初期費用や維持費用を抑えることが可能です。
地方取引所では地域密着型の支援やコスト面でのメリットが期待できます。証券会社と協議し、上場後の戦略や費用を考慮した長期的な計画を立てることが重要です。
IPO準備費用を最適化し、成功へ導くために

IPO準備にかかる費用について、準備段階から上場後まで網羅的に解説しました。
IPO準備には、監査法人、証券会社、コンサルティング会社など、多くの専門家の協力が不可欠であり、それぞれの費用も決して安価ではありません。
しかし計画的に準備を進め、費用を抑えるための対策を講じることで、IPOの成功と費用対効果の最大化は十分に可能です。