
自社をさらなる成長ステージへと導く、「株式上場(IPO)」という選択肢。「上場」は資金調達の新たな扉を開き、企業の知名度と信用力を飛躍的に向上させる魔法の杖となり得ます。
しかしその輝かしいメリットの陰には、コストや経営の自由度といった、見過ごせないデメリットも潜んでいます。
ここでは中小企業が、上場を検討する際に不可欠なメリット・デメリットを徹底比較。
さらに上場までの具体的なステップ、非上場という選択肢まで、全方位を網羅的に解説します。
上場(IPO)についての基本情報

株式上場とは、企業が自社の株式を一般市場で売買できるようにすることを指し、資本市場から直接資金を調達する手段です。
上場により、企業は幅広い投資家に株式を販売し、得た資金を事業拡大や技術革新、その他の戦略目標に活用します。これにより様々なメリットを企業にもたらします。
- 非上場企業とは
- 非上場企業とは、株式が公開市場で取引されず、限られた関係者のみで株式の売買が行われる企業を指します。
このため資金調達の手段は限られますが、株価が市場の影響を受けないため、経営の自由度が高いというメリットがあります。
また情報開示の義務が軽くなるため、機密情報の漏えいリスクが低く、競争上の優位性を維持しやすい点も特徴です。
上場(IPO)までの流れ
上場(IPO)までの流れは、大きくは次の4つの段階に分けられます。
- 3期以上前
- 2期前
- 1期前
- 申請年度
中小企業が上場するまでの一般的な流れ、および各段階で行う対応を箇条書きにてお伝えします。
3期以上前
上場する3期以上前に行う主な準備は次のとおりです。
- 上場時期や市場の選定
- 社長管轄の専属チームの組成
- 監査法人の選定
- 監査法人のショートレビュー
- 顧問弁護士など関係者の準備…など
※ 監査法人に関する詳細は「IPOにおける監査法人の役割と選び方|監査法人難民の対策も解説」で取り上げています。
2期前
上場する2期前に行う主な準備は次のとおりです。
- 利益管理制度・組織運営体制などの準備
- 監査法人による適正意見
- 内部統制報告制度(J-SOX)への対応
- 主幹事証券会社の決定…など
1期前
上場する1期前に行う主な準備は次のとおりです。
- 運営体制や会計・労務管理などの徹底
- 上場申請書など上場に向けた書類作成
- 監査法人による適正意見…など
上場する年度
上場年度に行うべきことは次のとおりです。
- 申請書類の完成
- 証券取引所へ上場申請
- 取引所による上場審査の対応
上記のとおり、上場するまでには多くの時間と準備が必要になります。
中小企業が上場する6つのメリット

ベンチャー企業などの中小企業が上場する主なメリットは、次のとおりです。
個別に内容を見ていきましょう。
資金調達の選択肢が増える
上場によって資金調達の選択肢が広がることで、企業は次のようなさまざまな戦略を柔軟に実行できるようになります。
- 新規事業の展開
- 技術革新
- 市場拡大
- 財務構造の改善…など
公開市場を通じて資金を調達することで、銀行融資や個別の資金調達への依存が減り、財務の安定性も向上します。
特に中小企業にとって、上場の大きな利点は株式市場を活用して大規模な資金を迅速に集められることにあります。これにより資金調達の力が大幅に強化され、成長のチャンスが拡大します。
内部管理体制の強化
証券取引所の上場審査では、コーポレートガバナンスや内部管理体制の有効性が重視されます。そのため適切な財務報告や取締役会の運用、予実管理体制の構築が不可欠です。
上場後の監査も厳格で、情報開示のための準備が常に求められるため、コンプライアンスが強化され、内部監査体制も充実します。
こうした審査や監査をクリアする過程で、企業は自然と優れた管理体制を構築していくことになります。結果として上場後には、非上場時よりも優良な管理体制が整えられるのです。
優秀な人材の確保
上場企業というステータスは、企業のブランディングだけでなく、優秀な人材の採用にも大きな利点をもたらします。
採用や転職サイトでは「上場企業かどうか」が記載されるため、上場企業は求職者にとって魅力的な選択肢となりやすいです。
特に知名度が高まることで、新卒や経験豊富な転職希望者が集まりやすくなり、結果として優秀な人材を確保する機会が増えます。
会社の知名度は、就職希望者にとって重要な要素のひとつでです。上場による知名度の向上は、人材採用の面でも大きな効果を発揮するでしょう。
従業員のモチベーション向上
上場企業で働くことは従業員のモチベーションを高め、仕事への意欲を高めることにつながります。上場企業の一員であるという自覚は、従業員に大きなやりがいを与え、会社への貢献意欲を高めるでしょう。
さらに株式オプションなどのインセンティブは、従業員が会社の成長を肌で感じ、より積極的に仕事に取り組むことを促します。
知名度・社会的信用が向上する
上場することは、企業に多くのメリットをもたらします。まず株式市場に上場することで、次のことが証明されます。
- 企業の透明性
- 財務健全性
- 経営の安定性
この透明性の高い運営は、社会的な信用を高める要因となり、顧客や取引先や投資家からの信頼を得るために効果的です。
さらに銀行や金融機関に対しても、企業の経営状況が明確に伝わるため、財務体質の強化につながり、結果として信用度が向上します。
新たなビジネスチャンスの創出にも
上場はまた、企業のブランド力を強化します。IPO(新規公開株)は投資家の注目を集め、雑誌や日経新聞などで取り上げられる機会が増えます。
これにより企業の知名度が広がり、より多くの人々に知られるようになります。さらに上場することで顧客や取引先からの信頼が強化され、新たなビジネスチャンスの創出にもつながる場合があります。
上場企業としての地位は、企業全体の信頼性と社会的評価を高める重要な要素となり、長期的な成長と発展の基盤を築くものです。
創業者利益を確保できる
上場することは、創業者にとって大きな利益をもたらす機会となります。まず上場することで株式の売却が可能になり、創業者は市場で株式を売却して創業者利益を得やすくなります。
加えて、株式の換金が容易になるため、相続時に自社株の評価で問題が発生するリスクも軽減されるでしょう。
これにより創業者は得た利益を新たなビジネスチャンスに再投資することができ、個人的な資産形成にも役立てることが可能です。
上場は創業者にとって、事業拡大と資産管理の両面で有利に働く手段となります。
中小企業が上場する4つのデメリット

お伝えしたとおり、上場には多くのメリットがありますが、デメリットもあります。ベンチャー企業などの中小企業が上場する主なデメリットは、次のとおりです。
個別に内容を見ていきましょう。
上場コストと事務負担の増大
企業が株式を上場する際には多額のコストが発生します。まず上場審査料として200万円~400万円、新規上場料として100万円~1,500万円が必要です。
上場時に加え、上場後も継続的な費用がかかります。主には次のようなさまざまなコストが必要です。
- 監査費用
- 法的費用
- 財務報告の作成費用
- 株主総会に関連する費用…など
上場企業は厳しい情報開示基準を満たすことが必要です。この基準を維持するために専門知識を持つスタッフや外部のコンサルタントの雇用することが必要な場合があります。
中小企業にとって、これらのコストは大きな財務的負担になる可能性があります。そのため上場による資金調達のメリットがこれらの維持費用を上回るかどうか、慎重に検討することが重要です。
※ 上場に関する費用の詳細は「上場(IPO)にかかる費用を解説|審査費用、新規・年間上場料」で取り上げています。
株主への配慮が求められる
株式公開後は、経営陣に株主や投資家に対する説明責任が生じ、経営の自由度が制限される場合があります。
特に企業買収や事業方針の大幅な変更などの重要な決定には、株主の承認が必要となり、迅速な対応が難しくなる場合があります。
また株主総会での決議が求められるため、意思決定のプロセスが複雑化し、経営判断が遅れる可能性も否めません。加えて、四半期ごとの業績が重視されることで、長期的な戦略が後回しになることがあり、短期的な成果が優先されがちです。
敵対的買収のリスクがある
上場後は不特定多数の投資家が、自由に自社の株を購入できるようになります。これに伴って企業の経営権が脅かされる可能性が否めません。
特に株式を市場で自由に売買できるため、他社や競合による株式の買い占めや敵対的買収のリスクが高まります。一定数の株式を他社に保有されると、経営権の行使が制限される恐れがあります。
結果的に過半数の株式を買収されると、経営権を失う危険性もあるのです。
買収対策コストも生じる
特に企業は、経営権を奪うことを目的とした「敵対的買収」を防ぐ必要があります。そのため買収防衛策を講じることが重要です。
例えば、ポイズンピルやゴールデンパラシュートといった買収防止策を事前に準備することで、リスクに備えられます。しかしこれらの対策には、多くのコストがかかることも考慮しなければなりません。
社会的責任の増加
上場企業はその業績や経営に関して、高いレベルの透明性と説明責任を求められます。これは投資家や顧客、従業員、さらには一般社会に対し、継続的なコミュニケーションや情報提供を行う必要があることを意味します。
また企業は倫理的な態度や社会的責任(CSR)活動への期待にも応えなければなりません。これが経営陣に追加の負担を与える場合もあります。
上場しないメリットや選択肢
世の中には、上場に必要な条件を満たしているにもかかわらず、あえて非上場を選択している大手企業も少なくありません。実際に、日本では全体の約99%の企業が非上場企業となっています。
もちろん企業規模が小さくて上場できない場合もありますが、有名企業でも必ずしも上場しているわけではないのです。あえて非上場の方がメリットはあると判断している大企業もあります。
上場しない主なメリットは次のとおりです。
個別に内容を見ていきましょう。
上場のためのコストがかからない
非上場企業の大きなメリットのひとつは、上場にかかる多額のコストを避けられる点です。企業が上場する際には、上場前、上場時、そして上場後にもそれぞれ費用が発生します。
例えば、上場前には監査法人や証券会社、株式事務代行機関などの関係機関に対して約2,000万円以上の支払いが必要です。
また上場後も、毎年の上場料として2,000万円以上の費用がかかり続けます。このようなコストを負担しなくて済むことが、非上場企業のメリットといえます。
経営の自由度が高い
企業が非上場を選ぶ理由としてもっと大きいのは、経営方針が株主の意向に左右されない点です。
上場企業は、株主の監視下で経営を行うため、業績が悪化すると厳しい目が向けられます。特に利益が減少した場合には、経営陣は株主からの厳しい質問や、場合によっては経営陣の刷新を求められる可能性があります。
しかし非上場企業であれば、そのような追及を受けることはなく、経営者は自由に企業運営を行うことができるのです。
上場に関する報告書の提出義務がない
非上場企業であることで、書類作成コストを削減できる点も大きな特徴です。
上場企業は金融商品取引法に基づき、財務計算書や内部統制、有価証券に関する報告書を決算後に提出しなければなりません。この提出書類の作成には多くのコストがかかります。
一方、非上場企業であれば、一部を除き有価証券報告書などの作成は不要です。また株主総会も上場企業に比べて小規模で済むため、過度なストレスを感じることなく運営できる点もメリットでしょう。
中小企業が上場(IPO)するための条件
ベンチャーなどの中小企業が上場をするためには、まず上場会社として適切かどうかの審査を受ける必要があります。
この審査には、「形式要件」と「実質審査基準」のふたつがあります。
形式要件
形式要件は、上場するために満たさなければならない最低条件と、申請前の一定期間に行ってはならない事項から成り立っています。
上場申請には、各取引所の定める形式要件への適合性が求められます。株式上場市場によって異なりますが、次のような項目が最低基準として設定されています。
- 最低公開株式数
- 純資産額
- 公開時の時価総額
- 設立経過年数…など
実質審査基準
実質審査基準とは、形式基準を満たした企業がさらに受ける審査のことを指します。この実質審査基準では、次のような点が詳しく審査されます。
- 企業の継続性・収益性
- 企業経営の健全性
- 企業内容等の開示の適正性
- 企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性
※ IPOするための審査の詳細は「【IPO】上場審査とは?審査基準・流れ・対策ポイントを徹底解説」で取り上げています。
未来を拓く、最適解の選択を

株式上場(IPO) について、メリット・デメリット、上場までの流れ、非上場という選択肢、そして上場に必要な条件まで、詳細に解説しました。
上場は資金調達や企業成長、知名度向上など、有望なメリットをもたらす一方で、コストや経営の制約や責任の増大といったデメリットも存在します。
重要なことは上場が万能薬ではないということ。自社のビジネスモデルや事業段階、戦略目標を慎重に分析しメリットとデメリットを均衡させた上で、最適な選択をすることが不可欠です。
この記事が貴社の未来を拓く一助となれば幸いです。
関連記事
上場の基礎から準備ステップや費用など網羅的な情報を取り上げています。